検索からAIチャットへ:ニュース利用は10%に増加、信頼度は20%にとどまる理由
Reuters Institute「Digital News Report 2026」とICT総研調査から、ニュース目的のAIチャットボット利用が7%から10%に伸びる一方、信頼度は20%にとどまる実態を整理する。検索からAIへ移る情報接触の変化と、メディア運営者が備えるべき論点を解説する。
検索の代わりにAIチャットへ質問する——そんな行動が、この1年で静かに広がっている。Reuters Institute(オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所)が2026年6月に公表した「Digital News Report 2026」によれば、ニュースを知る目的でAIチャットボットを週1回以上使う人は、世界平均で7%から10%へ増えた。一方で、AIチャットボットの回答を信頼すると答えた人は20%にとどまり、ニュース全体への信頼度37%を大きく下回る。
本記事では、この「利用は伸びるが信頼はまだ低い」という二重構造を、Reuters Institute の国際データと、ICT総研が2026年5月に公表した国内調査の両面から整理する。読了後、読者は検索からAIチャットへの移行がどの程度・どの層で起きているのかを具体的な数字で説明できるようになり、自社サイトやメディア運営における流入構造を点検する着眼点を持ち帰れるはずだ。
なお、本記事で扱う数値の一部は業界推計であり、公的な統計と性質が異なる。どの数字が一次資料で確認でき、どれが業界推計にとどまるかは、記事後半の「この数字をどこまで信じてよいか」で個別に示す。以下、本論に入る。
検索からAIチャットへ——利用は伸びるが、信頼はまだ追いついていない
結論を先に述べる。世界の情報接触は、検索エンジンや従来メディアという単一の入口から、SNS・動画・AIチャットボットという複数の経路へ分散しつつある。そのなかでもAIチャットボットは伸び率こそ大きいものの、絶対的な利用者はまだ少数派であり、しかも「使ってはいるが、答えを鵜呑みにはしていない」という慎重な向き合い方が世界共通で見られる。
この構造は、日本国内でも似た形で確認できる。ICT総研の調査では、生成AI利用後に検索エンジンの利用が減ったと答えた人が41.3%に上る一方、生成AIへの期待の1位は「より正確で信頼できる情報提供」だった。つまり、利用頻度は増えているのに、精度への物足りなさが解消されていない。読者のなかにも、「AIに聞いて済ませる場面が増えたが、念のため検索でも確認している」という心当たりを持つ人は多いだろう。
ではなぜ、「利用は増えるが信頼は低い」と言い切れるのか。次の章から、その根拠となる一次データを順に確認していく。
なぜ「利用は増えるが信頼は低い」と言えるのか——Reuters DNR2026が示す二重構造
Digital News Report 2026 は、48市場・合計97,520人(1市場あたり概ね2,000人)を対象にしたオンライン調査であり、Reuters Institute が2012年から毎年実施している定点調査の最新版にあたる(後述するニュース全体への信頼度の計測は2015年に開始された)。年次で比較できる数少ない一次データという点で、他の業界推計とは性質が異なる。
ニュース目的の利用は週7%から10%へ、ただし若年層は16%で偏りがある
同レポートは「AI chatbots as a new frontier in intermediated news consumption(媒介型ニュース消費の新たな最前線としてのAIチャットボット)」という表現で、この1年の変化を説明している。ニュースを知る目的でChatGPT・Perplexity・Gemini等を週1回以上使う人は、世界平均で7%から10%に増加した。
ただし、この10%という数字を額面通りに受け取ると実態を見誤る。利用は35歳未満に偏っており、この年代では16%がAIチャットボットをニュース目的で使っていると回答した。世代によって倍以上の開きがあるということだ。検索エンジンが登場した当初、若年層から先に定着していった経緯を思い出す読者もいるだろう。AIチャットボットのニュース利用も、同じような世代間の時差を伴いながら広がっている段階にあると見てよい。
信頼度は20%対37%——AI回答はニュース全体より低く見られている
利用が増える一方で、信頼はそれに追いついていない。AIチャットボットの回答を信頼すると答えた人は世界平均で20%にとどまり、ニュース全体への信頼度37%を大きく下回る。ニュース全体への信頼度そのものも、同レポートが2015年に測定を始めて以来もっとも低い水準まで落ち込んでおり、48市場中29市場で前年より低下した。つまり「ニュースそのものへの信頼」もすでに揺らいでいるなかで、「AIの回答への信頼」はさらにその下に位置している。
利用は伸びても、信頼はまだ追いついていない。
国別に見ると差は一段と際立つ。英国ではAIチャットボットの回答への信頼度がわずか6%で、調査対象市場のなかで最も低い。英国は元々報道機関への信頼が高い市場として知られており、その分「人間が書いた記事」と「AIが生成した回答」の落差が意識されやすいと考えられる。
利用者から支持された機能を見ると、この慎重さの背景が見えてくる。もっとも支持された機能は「追加質問ができること」で42%が挙げた。検索エンジンでは得づらかった、対話形式で掘り下げられる利便性は評価しつつも、出てきた答えをそのまま信じるところまでは踏み込んでいない、という距離感がうかがえる。
第三者プラットフォーム経由56%、SNS・動画が自社サイトを初めて上回る
利用と信頼のギャップだけでなく、ニュースに触れる経路そのものにも構造変化が起きている。同レポートは、SNS・動画ネットワークに新たにAIチャットボットを加えた「第三者プラットフォーム」経由のニュース接触が世界平均で56%に達したと報告している。
このうちSNS・動画ネットワーク単体でも54%に上り、報道機関の自社サイト・アプリ経由の51%を初めて上回った。テレビや自社ニュースサイトを主戦場としてきた既存メディアにとって、これは軽視できない変化である。読者がニュースに出会う最初の場所が、発信元の管理下にないプラットフォームへと移りつつあるということだからだ。
ここまでの内容を一文で言えば、「AIチャットボットは伸びているが、まだニュース接触全体のごく一部であり、しかも信頼はされきっていない」ということになる。では、この構造は国際データだけの話なのか、日本の生活者のレベルではどう見えるのか。次章で確認する。
日本の生活者はどう動いたか——ICT総研が捉えた検索行動の変容
ICT総研は2026年5月28日、「生成AI価値実感と継続意向調査」を公表した。2026年2月に実施した2,024人規模のアンケートの追加分析であり、生成AIが生活のなかでどう位置づけられているかを、行動と感情の両面から捉えている。
検索エンジン利用が減った人41.3%、代わりに何が増えたか
同調査では、生成AI利用後に利用が減ったものとして「検索エンジン(Google・Yahoo!等)」を挙げた人が41.3%でもっとも多かった。次いでSNSが23.6%、「人に聞く」「自分で一から調べる」がそれぞれ21.2%と続く。検索エンジンの置き換えが、他の情報収集手段の置き換えよりも顕著に進んでいることになる。
利用頻度そのものも伸びている。半年前と比べて利用が「増えている」「やや増えている」と答えた人は、ChatGPTで67.2%、Geminiで66.4%に上る。3人に2人が利用頻度の増加を実感しているという水準であり、一時的な物珍しさではなく、日常的な利用へ定着しつつあることを示している。
「なくなったら困る」59.2%——依存と不満が同居する実感
生成AIが「使えなくなったら困る」と答えた人は59.2%に達した(「非常に困る」18.3%、「ある程度困る」40.9%の合計)。半数を超える利用者が、生成AIをすでに補助的なツール以上の存在として位置づけていることになる。
ただし、依存度の高さがそのまま満足度の高さを意味するわけではない。同調査で生成AIへの今後の期待としてもっとも多く挙げられたのは「より正確で信頼できる情報提供」で56.6%だった。使えなくなると困るほど頼っていながら、精度への物足りなさも同時に抱えている——この併存こそが、Reuters DNR2026が国際レベルで示した「利用は伸びるが信頼は低い」という構造と、驚くほど重なる。検索からAIへという行動の変化は、日本国内でも生活者レベルで確実に進行していると見てよい。
なお、生成AI利用率の世代差については「生成AI利用率26.7%でも世代差3倍——20代44.7%と60代15.5%が映す生活の情報格差」で総務省の一次データをもとに詳しく扱っている。Reuters DNR2026が示した「35歳未満16%」という年代偏重とあわせて読むと、AI活用の世代間ギャップという論点がより立体的に見えてくる。
生活者側の変化を確認したところで、次は事業者側の数字に目を移したい。検索行動の変容は、メディアやコンテンツ運営者の収益構造にも直接影響する。
事業者側の数字で見る地殻変動——ChatGPT17.9%とゼロクリック検索の現実
生活者の行動変容は、検索市場のシェア構造にも表れ始めている。ここではSEO業界の推計データを扱うため、Reuters InstituteやICT総研のような公的・準公的な調査とは性質が異なる点を先に断っておく。
Google77%・ChatGPT18%、Webクエリの一角を占め始めたAI
SEOコンサルティング企業First Page Sageが公表した2026年第2四半期(Q2 2026)時点のデジタルクエリシェア推計によれば、Google検索が77.0%、ChatGPTが17.9%、Perplexity等その他が5.1%となっている。
Web検索の入口としてGoogleが圧倒的な地位を保っている点は変わらないが、ChatGPTが二桁台のシェアを持つ存在として定着しつつあることは、10年単位で見れば小さな変化ではない。ただし、この種の市場シェア推計はSEO業界の各社が独自の集計手法で算出したものであり、調査会社によって数字に幅がある。本記事で示した数値も、あくまで一つの推計として受け止めておきたい。
ゼロクリック検索の広がりは何を意味するか
検索結果ページのなかで疑問が解決し、外部サイトへ遷移しないまま検索を終える、いわゆる「ゼロクリック検索」の広がりも、SEO業界でたびたび指摘されている論点である。AI Mode(Googleの生成AI統合検索)のような機能が普及するほど、検索結果ページの中だけで回答が完結し、コンテンツ発信者のサイトへ訪問者が届きにくくなるという構造は、複数の業界レポートが共通して指摘している。
もっとも、ゼロクリック検索の具体的な比率は、調査主体や算出手法によって数値の幅が大きく、本記事では信頼できる単一の値として確定していない。そのため本記事では「ゼロクリックの広がりという方向性」までを事実として扱い、比率そのものの明記は見送る。
コンテンツ運営者にとっての実務的な含意は明快だ。Googleのシェアが圧倒的である現状を踏まえつつも、検索結果内で完結してしまう接触が増える前提に立ち、AIチャットボットや第三者プラットフォーム経由の接触も含めた流入経路全体を見直す必要がある。広報・メディアリレーションの実務においても、この流入構造の変化は無視できない。生成AIを使った実務対応の具体例は「広報での生成AI活用:プレスリリース・危機対応・メディアリレーションの実践ガイド」でも扱っている。
ここまで、国際データ・国内生活者データ・事業者データという3つの角度から数字を並べてきた。ここで一度立ち止まり、これらの数字をどこまで信じてよいのかを整理しておきたい。
この数字をどこまで信じてよいか——出典の性質と読み方の注意点
Reuters Institute のデータについても、割り引いて読むべき点がある。調査は調査会社YouGovによるオンラインパネルで実施されており、各市場とも概ね2,000人規模で、インターネット利用者に偏ったサンプルである点は同レポート自身も明記している。「週次利用」も自己申告であり、AI OverviewsのようなAI統合型の検索機能そのものは、この「AIチャットボット」利用の定義には含まれていない。
ICT総研の調査も、同一の2,024人サンプルに対する複数の設問から構成されている。「なくなったら困る」59.2%のような設問は利用経験者を前提にしている可能性があり、母数の取り方次第で数字の意味合いが変わりうる。加えて、前年のDigital News Report 2025では「AIのみで作られたニュースに抵抗がない」と答えた人が12%にとどまるという結果も示されており、AI生成コンテンツへの警戒感の根強さがうかがえる。他の要約記事で見かける個別の比率については、本記事執筆時点で一次資料上の該当箇所を確認できなかったため、あえて採用していない。
出典の性質を書き分けることは、単なる注記以上の意味を持つ。どの数字が検証済みで、どの数字がまだ推計の域を出ないのかを読者と共有すること自体が、AIが生成する情報への不信が広がるいまの状況では、書き手側の信頼性を支える材料になる。AI通信編集部は生成AIとメディア接触の変化を継続的に取材しており、本記事でも引用元の公式ページを一次資料として直接確認し、確認できなかった数値は採用しない方針で整理した。
検索からAIチャットへ、この変化にどう備えるか
ここまでの内容を、あらためて一文でまとめる。世界でもニュース目的のAIチャットボット利用は7%から10%へ伸びているが、信頼度は20%にとどまりニュース全体の37%を下回る。日本国内でも、検索エンジン利用が減ったと答えた人が41.3%に上る一方、生成AIへの期待の1位は「より正確で信頼できる情報提供」であり、依存と物足りなさが同居している。
冒頭で示した本記事のゴールに立ち返れば、読者はここまでの数字を通じて、検索からAIチャットへという行動変化がどの層で・どの程度進んでいるのかを、具体的な数字で説明できる状態になっているはずだ。
次の一手としては、まず自社サイトの流入経路を、検索エンジン・SNS・AIチャットボット経由に分けて確認することが現実的だ。第三者プラットフォーム経由の接触がすでに56%に達しているという国際的な傾向を踏まえれば、検索エンジン経由の流入だけを見て自社の露出を判断するのは、もはや実態を捉えきれない。あわせて、AIチャットボットの回答への信頼度がまだ低いという事実は、「AIに要約されて終わり」にしない一次情報としての価値をどう作るか、という論点にもつながっている。
検索行動の変化を、自社データでも確認する
本記事で示した国際データ・国内データは全体傾向を示すものであり、業種・読者層によって実際の影響度は異なる。まずは自社サイトのアクセス経路の内訳から確認するのが現実的な第一歩になる。
執筆
AI通信 編集部
AIが社会・ビジネス・日常へ浸透する構造を、官公庁・調査機関・一次論文のデータで追っています。速報より文脈、感覚より数字——変化の「なぜ」を理解することで、次の動きが読める記事を目指しています。
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