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AI過渡期のデータと趨勢

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社会

AI電話が独居高齢者を見守る自治体2026——出雲市の実証と山形市の孤立対策に見る実装のいま

総務省調査でAI・RPA導入済み自治体は64.5%に達した(令和6年12月31日時点)。出雲市はAI電話サービスで高齢者約70人を対象に9か月の実証実験を行い2026年4月に商用化、山形市は生成AIと専門職のハイブリッド相談で孤独・孤立を抱える住民を支える。行政AI実装の現在地を一次データで読み解く。

| 約11分
出雲市のAI電話による高齢者見守りと、山形市のAIチャットによる孤独・孤立支援という、対象も設計も異なる2つの自治体AI実装を、専門職につながる設計と共に示すインフォグラフィック。自治体AIが見守りの選択肢を広げつつある段階であることを表す。

離れて暮らす親の様子が気になっても、毎日電話をかけ続けるのは難しい。そう感じている現役世代は少なくない。一方で自治体の側も、独居高齢者の見守りを担ってきた民生委員や地域包括支援センターの人手不足という同じ課題に直面している。

この隙間を埋める手段として、AI電話やAIチャットを使った見守り・相談サービスを導入する自治体が増えている。総務省の調査によれば、AI・RPA(定型業務を自動処理するソフトウェア)を導入済みの自治体は全国で64.5%に達した(令和6年12月31日時点)。ここでいう「導入済み」は、必ずしも高齢者見守りに限った数字ではないが、自治体という現場でAIが特別なものではなくなりつつある土台を示している。

この総務省の一次統計を起点に、実際にAI電話・AIチャットを高齢者や孤立した住民に向けて動かしている2つの自治体——島根県出雲市と山形県山形市——の取り組みを、公式発表に基づいて追っていく。読み終えるころには、「自治体のAI活用」という言葉の中身を、確認できた事実とまだ確認できていない部分に分けて具体的に捉えられるはずだ。そこには、これらの取り組みが人的支援を代替するものではなく補完する設計になっているという、実装の現在地も見えてくる。

AI・RPA導入済み自治体64.5%——独居高齢者を支える地域AI実装の全体像

まず全体の土台を確認する。総務省が公表した「自治体におけるAI・RPA活用促進」(令和7年6月30日版)によれば、全国1,788団体のうち1,154団体、比率にして64.5%が、令和6年12月31日時点でAIまたはRPAを導入済みである。内訳を見ると、AIのみ導入している団体が19.4%(347団体)、RPAのみが5.1%(91団体)、両方を導入している団体が40.0%(716団体)、そしてどちらも未導入の団体が35.5%(634団体)となっている。

この数字が示しているのは、自治体の窓口業務や内部事務にAIが入り込むこと自体は、もはや先進事例の紹介記事で驚くような話ではなくなっている、という土台である。

ただし注意しておきたいのは、この64.5%という数字は行政事務全般の導入率であり、高齢者見守りや住民相談に特化した数字ではないという点だ。「自治体がAIを使い始めている」ことと「その自治体が高齢者を支える仕組みとしてAIを使っている」ことは、重ねて語れるほど単純な話ではない。この違いを踏まえたうえで、まず自治体がAI電話・AIチャットにまで踏み込む背景を確認し、そのうえで実際に高齢者や孤立した住民に向けてAIを動かしている2つの自治体の事例を見ていく。

なぜ自治体はAI電話・AIチャットに動くのか——高齢化と担い手不足の交差点

なぜ、行政事務の効率化にとどまらず、住民一人ひとりに語りかけるAI電話やAIチャットにまで踏み込む自治体が出てきたのか。

背景にあるのは、高齢化が進む地域ほど、独居高齢者の見守りや孤立した住民への声かけを担う人手が先に細っていくという構造である。民生委員や地域包括支援センターの職員が一軒ずつ電話をかけ、様子を確認する体制には限界があり、担い手不足が続けば見守りの網から漏れる世帯が増えかねない。

ここでAI電話やAIチャットが持つ役割は、人の代わりに判断を下すことではない。声をかける「回数」を確保し、異変の兆候があれば専門職員につなぐという、一次的な網の目を広げる役割である。

言い換えれば、AIは見守りの質を保証する主役ではなく、見守りの機会そのものを増やすための補助線だと捉えるほうが実態に近い。この視点を踏まえたうえで、実際にどのような設計でこの補助線が引かれているのか、出雲市の事例から確認していく。

出雲市——AI電話「NAVER CareCall」が高齢者約70人を見守った9か月

2025年7月の協定から2026年4月の商用化まで——実証実験の設計と経過

島根県出雲市は、AI電話サービス「NAVER CareCall」を使った高齢者見守りの取り組みを進めてきた自治体である。経緯を時系列で追うと、報道によれば市内の一部地域での試験的な運用を経て、NAVER Cloud Japanと出雲市のあいだで業務協定が締結された。なお一部の報道は出雲市社会福祉協議会も加わった協力体制に言及しているが、事業者(LINE WORKS/NAVER Cloud)と出雲市が公表した一次発表では当事者を両者としており、社会福祉協議会の関与は一次資料では確認できていない。

この業務協定の時期について、LINE WORKS株式会社が2026年4月2日に配信したプレスリリースは「昨年7月」と記しており、逆算すると2025年7月にあたる。同リリースによれば、出雲市内在住の高齢者約70人を対象に、約9か月にわたる実証実験が行われた。そして2026年4月1日、NAVER CareCallは実証実験の段階を終え、正式な商用サービスとして販売が開始されている。

つまり出雲市の事例は、単発の実験で終わったものではなく、試験的な運用から2025年の業務協定、そして2026年の商用化へと段階を踏んで進んできた取り組みだということになる。

確認できたこと、まだ確認できていないこと——架電頻度と効果測定の限界

ここで一つ、読者が抱きそうな疑問に先回りしておきたい。「結局、このAI電話は効果があったのか」という疑問である。正直なところ、その答えを裏づける定量データは、今回確認できた一次発表の中には見当たらなかった。実証実験を経て商用化に至ったという事実そのものが、少なくとも事業として継続する判断がなされたことの一つの手がかりにはなる。ただし、それを「劇的な効果があった」と読み替えるのは早計である。

この留保を踏まえたうえで、次に対象や設計思想がまったく異なるもう一つの事例——山形市の取り組みに目を移す。

山形市——生成AIと専門職のハイブリッドが支える「つながりよりそいチャット」

対象は高齢者に限らない「孤独・孤立」——見守りとは異なる設計思想

山形市が運用する「つながりよりそいチャット」は、出雲市のAI電話とは設計思想が異なる取り組みである。最も大きな違いは対象範囲だ。出雲市のNAVER CareCallが高齢者を対象とした見守りサービスであるのに対し、山形市のこのサービスは、孤独感や孤立感を抱える市民全般を対象としており、高齢者に限定されていない。

仕組みとしては、傾聴型の生成AIと、社会福祉士・精神保健福祉士といった専門職員が組み合わさったハイブリッド型の相談体制になっている。24時間対応のLINE相談として、令和6年7月12日から本格運用が始まっている(サービス案内ページ)。生成AIがまず相談者の話に耳を傾け、必要に応じて専門職員につなぐという二段構えの設計は、AIに人的支援を丸ごと置き換えさせるのではなく、専門職員につながるまでの間口を広げる役割をAIに担わせている点で、出雲市の「補助線」という考え方と重なる部分がある。

176件の試行登録から本格運用へ——実績が示す規模感

本格運用に先立ち、山形市は令和5年2月16日から27日にかけて試行事業を実施している。山形市公式ページによれば、この試行期間中の友だち登録は176件、実際にLINE上でやり取りがあった利用者は80人、やり取りの件数は合計1,672件だった。

この規模感をどう捉えるべきか。約2週間という短い試行期間で176件の登録があったという事実は、孤独感や孤立感を言葉にする窓口への一定の需要があることを示している。一方で、令和6年7月の本格運用開始以降にどれだけの規模で利用が積み上がっているかについては、今回確認できた山形市の公式発表・案内ページの範囲では、具体的な累計件数は示されていない。試行段階の実績と、本格運用後の実績は、区別して理解しておく必要がある。

ここまでで、見守りと相談という目的の異なる2つの取り組みを見てきた。ではこれらを並べたときに、自治体AI実装の現在地についてどのような論点が見えてくるだろうか。

自治体AI実装が投げかける論点——効率化の先にあるリスクと限界

まず言えるのは、両事例とも「AIが人に取って代わる」設計にはなっていないという点である。出雲市のAI電話は専門職員による見守り体制を補うものであり、山形市のチャットも生成AIの後ろに専門職員が控えるハイブリッド構成になっている。AIが最終判断を担うのではなく、人による支援につなぐ手前の間口を広げる、という共通の設計思想が透けて見える。

次に指摘しておくべきは、効果測定がまだ途上にあるという点だ。出雲市・山形市いずれの事例でも、事業の効果を裏づける定量データ——出雲市であれば架電頻度や検知件数、山形市であれば本格運用後の累計利用実績——は、今回確認できた公表資料の中には見当たらなかった。実証実験から商用化へ、試行事業から本格運用へと段階が進んでいること自体は事実だが、それがそのまま「効果が実証された」ことを意味するわけではない。

さらに、総務省の64.5%という導入率の内訳を思い出したい。AIのみ導入している団体が19.4%、両方導入している団体が40.0%というように、自治体ごとの取り組み方には幅があり、そもそも導入すら済んでいない団体が35.5%を占めている。出雲市や山形市のような踏み込んだ実装が、全国どの自治体でも同じように進んでいるわけではないという地域差も、あわせて押さえておく必要がある。

地域AIは「見守りの選択肢」を増やした——万能ではない実装のいま

ここまで、総務省の一次統計(AI・RPA導入済み自治体64.5%)を起点に、出雲市のAI電話「NAVER CareCall」(高齢者約70人・約9か月の実証を経て2026年4月に商用化)と、山形市の「つながりよりそいチャット」(孤独・孤立を抱える市民全般を対象とした生成AIと専門職のハイブリッド相談)という、対象も設計も異なる2つの事例を確認してきた。

要点を一文で言えば、自治体AI実装の現在地は「見守りや相談の選択肢を一つ増やした段階」であり、人的支援を置き換える万能な解決策ではない、ということになる。効果を裏づける定量データがまだ十分に公表されていない以上、「AIが高齢者の孤立を解決した」と言い切ることはできないし、そう断定する記事があれば、その根拠を疑ってかかるくらいがちょうどよい。

離れて暮らす家族がいる読者にとっての次の一手は、まず自分の自治体、あるいは親が暮らす自治体のホームページで、どのような見守り・相談の仕組みが用意されているかを確認することだろう。それと並行して、AIによる声かけがあるかどうかにかかわらず、家族間で直接連絡を取り合う頻度についても、一度話し合っておく価値がある。AIは選択肢を増やしてくれるが、家族の会話の代わりにはならない。

なお、生成AIの個人利用における世代間の差については、生成AI利用率26.7%でも世代差3倍という記事で総務省データをもとに詳しく整理している。また、高齢者を狙うAI悪用の側面については、AI音声クローンによる特殊詐欺と家族の防衛策を扱った記事もあわせて参照してほしい。自治体が提供する「守るためのAI」と、悪用される「狙うためのAI」の両面を押さえておくことが、この分野の全体像をつかむ助けになるはずだ。

執筆

AI通信 編集部

AIが社会・ビジネス・日常へ浸透する構造を、官公庁・調査機関・一次論文のデータで追っています。速報より文脈、感覚より数字——変化の「なぜ」を理解することで、次の動きが読める記事を目指しています。

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