中国系生成AIは今どこまで来たか:DeepSeek・Qwen・Kimi・GLMの2026年8月地図
DeepSeek・Qwen・Kimi・GLMなど中国系ラボの新モデル公開が2026年8月に集中した。独立指標Artificial Analysis Intelligence Indexのオープンウェイト部門は上位10のうち7件を中国系ラボが占める(2026年8月27日時点)。各社発表と独立算出を分けて現在地を整理する。
独立指標が示す中国系AIの現在地:2026年8月27日時点の地図
DeepSeek・Qwen・Kimi・GLMという中国系4ラボの新モデル発表が、2026年7月末から8月にかけての一か月足らずの間に立て続けに起きた。単発の発表を個別に追っているだけでは、この密度がどれほど異例かは実感しにくい。
そこで手がかりになるのが、第三者の分析機関Artificial Analysisが算出する「Intelligence Index」のオープンウェイト部門である。2026年8月27日時点でこの指標を確認すると、上位10モデルのうち7件を中国系ラボのモデルが占めている。本記事では、この独立指標が示す実測の順位と、各社が自社発表で語る性能訴求とを切り分けたうえで、2026年8月27日時点における中国系生成AIの現在地を整理する。読み終えたころには、新しいモデルの発表を見かけたとき、それが誰の主張で、どの物差しで測られた数字なのかを自分で判別できるようになっているはずだ。
Artificial Analysis Intelligence Indexは、GDPval-AA v2・SciCode・GPQA Diamondなど9種類の評価を統合したスコアで、バージョンはv4.1.1(2026年8月27日時点)である。ここで確認しておきたいのは、この指標自体が一民間企業による独立算出にすぎず、絶対的な正解ではないという点だ。評価対象のタスク選定や重み付けが変われば、順位は動く。とはいえ、複数ラボの発表をベンダー自身の主張だけで比較するよりは、同一の物差しで横並びにできる分、実務担当者にとっての参考価値は高い。
オープンウェイト部門トップ10(Artificial Analysis Intelligence Index、2026年8月27日照会)
| 順位 | モデル | スコア |
|---|---|---|
| 1 | Kimi K3 (max) | 60 |
| 2 | GLM-5.3 (max) | 60 |
| 3 | Qwen3.8 2.4T A95B | 58 |
| 4 | GLM-5.3-Flash | 57 |
| 5 | DeepSeek V4 Pro 0813 | 53 |
| 6 | Qwen3.8 27B (xhigh) | 52 |
| 7 | Motif 3 | 47 |
| 8 | MiniMax-M3 | 45 |
| 9 | Inkling (xhigh) | 42 |
| 10 | Nemotron 3 Ultra 550B A55B | 38 |
10モデルのうち、Kimi K3・GLM-5.3・GLM-5.3-Flash・Qwen3.8 2.4T A95B・DeepSeek V4 Pro 0813・Qwen3.8 27B・MiniMax-M3の7件を中国系ラボが占める。上位6件が連続して中国系ラボで占められ、8位にもMiniMax(上海)のMiniMax-M3が入る。残る3件は、7位のMotif 3がMotif Technologies(韓国)、9位のInklingがThinking Machines(米国)、10位のNemotron 3 UltraがNVIDIA(米国)である。
表中の「(max)」「(xhigh)」という括弧書きは、別のモデルや別のチェックポイントを指すものではない。reasoning_effort(思考にどれだけ計算資源を割り当てるかという設定値)を最大にした条件で評価したことを示す注記である。Kimi K3のモデルカードには、この設定値が「low」「high」「max」の3段階から選べ、既定値は「max」だと明記されている。GLM-5.3も同様の設定を持つ。読み違えやすい表記だが、一度この意味を押さえておけば、以降の数値もそのまま読める。
一か月に集中した発表:DeepSeek・Qwen・Kimi・GLMの2026年7月末〜8月
順位表だけを見ると、上位に並ぶモデルがどれも同時期に生まれたように映るかもしれない。だが実際の発表は、7月半ばから8月末にかけて、数日から十日おきに連続して起きていた。この密度は、いったいどれほど異例なのか。Artificial Analysisの順位表自体には各モデルの発表日が記載されておらず、発表日の側は各社の個別記事やモデルカードに分散している。そこで、両者を突き合わせた年表を以下にまとめた。
| 日付 | 出来事 | Intelligence Index の順位・スコア |
|---|---|---|
| 2026年7月16日 | Kimi K3、Moonshot AIがAPI経由で公開 | 1位タイ・60 |
| 2026年7月27日 | Kimi K3、Hugging Face上で重み公開 | 同上 |
| 2026年7月31日 | DeepSeek-V4-Flash-0731、Hugging FaceでMITライセンスのもと無償公開 | 対象外 |
| 2026年8月3日 | Qwen3.8-Max(Qwen3.8 2.4T A95B)、Alibaba Qwenチームが発表 | 3位・58 |
| 2026年8月13日 | DeepSeek-V4-Pro-0813、中国時間で発表 | 5位・53 |
| 2026年8月14日 | GLM-5.3・GLM-5.3-Flash、Z.aiがAPI・コーディングサービス経由で先行公開 | 1位タイ・60/4位・57 |
| 2026年8月26日 | Qwen3.8-Flash-Next、Alibaba Qwenチームが発表 | 対象外 |
この年表は、Artificial Analysisの順位表と各社個別の発表記事・モデルカードを本記事側で照合し、統合したものである。どちらの出典にも、この組み合わせ自体は存在しない。
日付の裏付けの強さには差がある。DeepSeekの2モデルは、モデル名自体に日付が組み込まれている(「0813」は8月13日、「0731」は7月31日を示す)ため、日付の裏付けが比較的強い。一方でKimi K3・Qwen3.8-Max・GLM-5.3の発表日は、モデルカード本体には明記がなく、複数の技術系メディアの報道を参考にした時期である。日付そのものの精度よりも、7月半ばから8月末にかけて発表が途切れなく続いたという密度を、この年表の要点として読んでほしい。
GLM-5.3(Flash以外の本体)の状況には注意が必要である。2026年8月14日にAPI・コーディングサービス経由での提供が先行し、Hugging Face上での重み公開はその後になった。データの基準日である2026年8月27日の照会では、重みが完全な形で公開済みかどうかを一次情報から断定できなかった。だが公開直前の2026年8月29日に再確認したところ、重みファイル一式(safetensors形式、計756GB相当)がHugging Face上で取得可能になっていた。同じ世代でもGLM-5.3-Flashについては、より早い段階からHugging Face上で実際のモデルファイルの提供が確認できている。「オープンウェイト」という言葉を一括りに使うと、こうした公開状況の差と、API提供から重み公開までの時間差が見えなくなる。
各社が語る強み:ベンダー自身の性能訴求を分けて読む
ここまでで、発表そのものの密度と時系列を確認した。ここからは、各ラボが自社発表でどう性能を語っているかを確認する。以下に挙げる数値は、すべて各社自身のベンチマーク・評価条件にもとづく自己申告である。独立指標のような横並び比較ではなく、各社が選んだ評価軸で測られている。
DeepSeekとQwen:兆パラメータ級モデルの相次ぐ投入
DeepSeek-V4-Pro-0813は、総パラメータ数1.7兆(1.7T)の大規模モデルである。DSparkと呼ぶ投機的デコードモジュールを新たに統合し、前バージョンのDeepSeek-V4-Pro(Preview)からのアップグレード版と位置づけられている。DeepSeek自身は、モデルカードで「DeepSeek-V4-Pro(Preview)を上回り、最強クラスの独自(プロプライエタリ)モデルと広く競合する水準にある」と説明している(出典:DeepSeek-V4-Pro-0813モデルカード)。エージェント関連のタスクで特に性能が向上したともしており、コード関連の評価でも複数の指標で高いスコアを示している。
Qwenチームは、8月3日に2.4兆(2.4T)パラメータ・アクティブ950億(95B)パラメータのQwen3.8-Max(Qwen3.8 2.4T A95B)を発表した。Qwenチームの発表によれば、画像理解を伴うタスクの評価であるOSWorld-Verifiedで86.1点を記録したという(出典:MarkTechPost)。
同じQwenチームは8月26日、コスト効率を追求した小型モデルQwen3.8-Flash-Nextを投入した。コア部分1250億(125B)パラメータのうちアクティブパラメータは60億(6B)、これに加えて510億(51B)のN-gram埋め込み層(単語の並びをあらかじめ表に持たせ、計算量を抑える仕組み)と40億(4B)のMTP(Multi-Token Prediction、複数トークンを一度に予測する仕組み)層を持つという構成である。文脈長はネイティブで262,144トークン、YaRNという手法で最大100万トークンまで拡張できるとされる。価格は入力100万トークンあたり0.16ドル、出力は0.47ドルとAlibaba Qwenチームの公式X投稿で発表されている。Qwenチームは、この学習コストが前世代のQwen3.7-Plus比で「約9分の1」にまで下がったと説明しているが、これもQwenチーム自身の発表であり、第三者による独立検証は確認できていない。
Kimiの高速世代交代とGLMのコーディング特化
Kimi K3は総パラメータ2.8兆(2.8T)、アクティブパラメータ1040億(104B)、文脈長は約100万トークンに達する。Moonshot AIは、Kimi Delta AttentionとAttention Residualsという新しいアーキテクチャにより、前世代のKimi K2比で「スケーリング効率が2.5倍に改善した」と説明している。テキスト・画像・動画を同一モデルで扱えるマルチモーダル対応と、長時間のエンジニアリング作業を継続できる「Long-Horizon Coding」という特徴も、Moonshot AI自身が強みとして挙げている点である。
GLM-5.3は総パラメータ7530億(753B)で、Z.aiは「コーディングに関して最も高性能なオープンウェイトモデル」と位置づけ、自社の内部ベンチマークであるZ.ai Code Benchで前世代のGLM-5.2比50%の性能向上を確認したとしている。同時に投入されたGLM-5.3-Flashは総パラメータ3200億(320B)・アクティブ180億(18B)という軽量構成で、Z.aiによれば価格はGLM-5.2比で10分の1に下がったという。いずれもZ.ai自身が公表した数値であり、独立算出の裏付けがあるわけではない。
自己申告と独立算出をどう分けて読むか
ここまで見てきたベンダー自己申告の数値は、決して不誠実というわけではない。各社が自社の重視する用途(コーディング・エージェント・マルチモーダル)に合わせて評価軸を選び、その物差しで測った結果を公表しているにすぎない。問題が起きるのは、読み手がその数値を「業界共通の物差しで測った順位」と取り違えたときである。
では、独立指標なら無条件に信頼してよいのだろうか。答えは否である。Artificial Analysis Intelligence Indexのような独立指標にも限界はある。9種類の評価を1つのスコアに統合する時点で、どの評価をどれだけ重視するかという設計判断が入り込む。ある用途では上位のモデルが、別の用途では順位を落とすことも珍しくない。独立指標は「ベンダーの主張よりは中立」ではあっても、「絶対的な正解」ではない。この二重の留保を持ったまま数字を読むことが、この分野を追ううえでの土台になる。
対照的に、一般の受け止め方と実測指標はまた別の軸で動いている。Pew Research Centerが2026年に実施した世論調査では、米国成人の36%が「AI開発は中国が優位」と回答し、「米国が優位」と答えたのは12%にとどまった(出典:米国のAI世論を扱った記事)。この数字は一般市民の印象を集計したものであり、本記事が扱う独立指標による実測とは、そもそも測っている対象が違う。ベンダー発表・独立指標・世論調査という3つの物差しを混同せず、それぞれが何を測っているかを意識して読み分ける必要がある。
導入を検討する実務担当者が確認すべき点
物差しの違いを踏まえたうえで、次に実務側の視点に移る。自社での採用を検討する実務担当者にとって、順位表の数字だけでは判断材料として不十分である。確認すべき点は主に3つに整理できる。
第一に、ライセンスと重みの公開状況である。DeepSeek-V4-Flash-0731はMITライセンスで公開されている。一方でGLM-5.3(Flash以外の本体)のように、API提供が先行し、重みの公開が二週間ほど遅れて続いたモデルもある。「オープンウェイト」と紹介されていても、その時点で実際にダウンロードして自社環境で動かせる状態かどうかは、個別に確認する必要がある。
第二に、評価条件の違いである。Kimi K3やGLM-5.3のスコアは、reasoning_effortを最大にした「(max)」設定での結果だった。実運用でコストを抑えるために設定を下げれば、性能も評価表どおりには出ない可能性がある。ベンダーが示すベンチマークが、自社の想定する利用条件(推論コスト・レイテンシの許容範囲)と一致しているかを確認したい。
第三に、鮮度である。この記事で取り上げたモデルの発表は、いずれも2026年7月半ばから8月末までの一か月半に集中していた。この後も新しいチェックポイントが投入される可能性は高く、順位表の数字は数週間で入れ替わりうる。導入検討の際は、この記事の数値をそのまま使うのではなく、Artificial Analysisの公式ページと各モデルのHugging Faceカードを、検討着手のタイミングで直接確認することを勧める。
最新の順位と一次情報を確認する
Artificial Analysisのオープンウェイト部門ページと各社のHugging Faceモデルカードは、この記事の数値よりも新しい状態に更新されている可能性がある。導入検討の前に必ず一次情報を確認したい。
2026年8月27日時点のまとめと、この地図の使い方
ここまでの内容を踏まえて、最後に全体像を整理する。2026年8月27日時点のArtificial Analysis Intelligence Index、オープンウェイト部門で、上位10モデルのうち7件を中国系ラボ(Kimi、GLMが2件、Qwenが2件、DeepSeek、MiniMax)が占めている。これが本記事の核心である。この背景には、7月半ばから8月末にかけて一か月余りの間に、DeepSeek・Qwen・Kimi・GLMが立て続けに新モデルを投入したという発表の密度がある。
もう一つ押さえておきたいのは、各社が発表する性能訴求と、この独立指標が示す実測は、そもそも別の物差しだということだ。ベンダー自己申告は各社が選んだ評価軸での結果であり、独立指標もまた一民間企業の設計判断を反映した1つの見方にすぎない。どちらか一方を鵜呑みにするのではなく、両方を並べて読むことで、初めて実務判断に使える材料になる。
この地図の使い方は単純だ。新しいモデルの発表を見かけたら、まずそれが誰の主張なのかを確認する。次に、独立指標での位置づけを確認する。そのうえで、自社の用途に照らして評価条件が合っているかを見る。この3段階を踏めば、数週間ごとに動くこの分野の動向にも、都度振り回されずに向き合えるはずだ。2026年8月27日時点の地図は、あくまで通過点である。次にこの分野を確認するときも、この3段階の読み方を出発点にしてほしい。
執筆
AI通信 編集部
AIが社会・ビジネス・日常へ浸透する構造を、官公庁・調査機関・一次論文のデータで追っています。速報より文脈、感覚より数字——変化の「なぜ」を理解することで、次の動きが読める記事を目指しています。
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