Gemini 4 ArgonのVals Index 1位は一般提供6日後の更新で入れ替わった。惑わされない順位の読み方
Googleが10月13日の一般提供の告知で示したGemini 4 ArgonのVals Index 1位は、版2.1の値だ。10月19日の版2.2ではClaude Sonnet 5.5が70.85%で首位、Argonは69.24%で3位になった。版と代替処理の数え方で並びが変わる点を、Valsの値で読み分ける。
Googleは2026年10月13日、Gemini 4 Argonの一般提供を知らせるブログ記事で、Argonについて「ranking #1 on the Vals Index」と書いた(9月30日の最初の発表は、Fairwind Programを通じた一部のサイバー防御者向けの限定提供だった)。Vals Indexは、AIモデルの評価を公開している事業者Vals AIが、金融・コーディング・法務・税務の業務の成績を米国GDPの産業別の比率で重みづけて合算した指標である。その現行の表では、10月19日の更新以降、Argonは3位になっている。Argonは本当に1位なのか。
本記事の主張は次のとおりだ。Argonの「Vals Index 1位」は、指標の版が2.1から2.2へ更新されたことや、拒否時の代替処理の数え方の違いで入れ替わる程度の差にあり、総合順位は「ある版・ある日付・ある集計条件での並び」として読むのが妥当である。版とは、Valsが指標の構成を改訂するたびに付ける番号で、代替処理とは、モデルの提供元が設問を拒否したとき、別のモデルが代わりに処理する仕組みを指す。
読み終えたとき、読者は次の四点を説明できる。10月13日の「1位」が版2.1での事実だったこと、版2.2と代替処理の数え方で並びが変わること、上位3モデルの差が表示された±値と同じ桁にあること、総合順位の下で先行するモデルが項目ごとに違うことである。
「1位」は10月13日の版の値で、10月19日の更新後は3位になっている
Googleの「1位」は、告知した時点のValsの表と一致している。10月13日更新の版2.1ではArgonが首位、Claude Sonnet 5.5が2位、Claude Opus 5.5が3位で、同じ顔ぶれと値は10月6日付の保存版にもある。Valsは一般提供の6日後、10月19日に版2.2へ更新した。現行の表では、Sonnet 5.5が首位、Opus 5.5が2位、Argonが3位である。
表1 Valsが示す見出し値(上位3モデル、%。出典はVals Index)
| 順位 | 版2.1(10月13日更新) | 版2.2(10月19日更新) |
|---|---|---|
| 1位 | Gemini 4 Argon 68.90 | Claude Sonnet 5.5 70.85 |
| 2位 | Claude Sonnet 5.5 67.04 | Claude Opus 5.5 70.18 |
| 3位 | Claude Opus 5.5 66.97 | Gemini 4 Argon 69.24 |
Argon自身の点も、版2.2では0.34ポイント上がっている。Sonnet 5.5は3.81ポイント、Opus 5.5は3.21ポイント上がった。Claudeの2モデルの上がり幅がArgonより大きく、並びが入れ替わった。
総合順位は、ある日に撮った一枚の写真に近い。
10月13日の「1位」は、Valsの版2.1という条件で写った並びで、その時点では事実だった。では、版2.1から2.2へ、何が変わったのか。
順位が動く条件は二つある。指標の更新と、拒否時の代替処理の数え方
更新で動いたのは主に二つの項目で、Claudeの2モデルの点が大きく上がった
Valsの更新履歴によると、10月19日の版2.2では五つの変更が入った。金融の多段推論を測るFinance Agent、表計算での金融モデル作成を測るEMB、プロジェクトの別言語への移植を測るCode Migration、法務の長い作業の成果物作成を測るHLAB(Harvey’s Legal Agent Benchmark)の4項目が新しい版に更新され、米国の法人税の調査を題材とするTax Agent Benchは、採点がall-pass accuracyに切り替わった。更新前後の点を並べると、Claudeの2モデルがArgonより大きく点を上げた項目は、Finance AgentとCode Migrationである。
表2 更新前後の点(%。矢印の左が版2.1、右が版2.2)
| 項目 | Argon | Sonnet 5.5 | Opus 5.5 |
|---|---|---|---|
| Finance Agent(v2からv2.1) | 65.40 → 67.66 | 58.10 → 67.28 | 58.59 → 67.85 |
| Code Migration(v1からv1.1) | 69.50 → 74.43 | 70.13 → 87.37 | 68.90 → 80.49 |
| Vals Index(見出し値) | 68.90 → 69.24 | 67.04 → 70.85 | 66.97 → 70.18 |
(注)Code Migrationの値は、Vals Indexが使う設問の部分集合での点で、単独の評価ページの点とは異なる。
Valsは、Finance Agentでは採点の仕組みと問題・採点基準のデータを、Code Migrationでは実行の枠組みと採点用の非公開テストを改めたと説明し、どちらの項目も新しい版の点は前の版と直接比較できない、とも書いている。
各項目の値と重みから指数を組み直し、版2.1でArgonが上、版2.2でSonnet 5.5が上に立つという差の変化(約3.5ポイント)を、項目ごとに分けた。算式は、項目の重みに、二つのモデルの点の変化の差を掛けたもので、本記事独自の分解である。約95%はFinance AgentとCode Migrationの更新に対応する。内訳は、Finance Agentが約1.8ポイント、Code Migrationが約1.5ポイントである。
ただし、Claudeの2モデルの点が特に大きく動いた理由は、Valsの更新履歴と両項目のページには記載がない。この分解が示すのは、どの項目の点が動いたかにとどまり、なぜ動いたかには及ばない。
代替処理を失敗と数えると、版2.2でもArgonが首位になる
Sonnet 5.5とOpus 5.5の見出し値には、代替処理(Valsの用語ではfallback)の結果が含まれる。Valsは注記で、これらを失敗と数えるとSonnet 5.5は69.03%、Opus 5.5は64.16%に下がり、代替処理のないArgonが首位になる、と書いている。
版2.1にも同じ注記があり、失敗と数えた値はSonnet 5.5が65.85%、Opus 5.5が65.05%で、首位はArgonのままだった。
並びの違いは、Valsの更新と代替処理の数え方の二つに対応している。この二つを重ねて、上位3モデルの点を並べてみる。
上位3モデルの差は±値と同じ桁で、条件を一つ変えると並びが入れ替わりうる
版と数え方を組み合わせた4通りで、上位3モデルの点を並べる
Valsの順位表と代替処理の注記の値を、版(2.1と2.2)と数え方(見出し値と、失敗と数えた値)の4通りで並べ直し、3モデルのうち最高の点と次の点の差を引き算で求めて加えた。4通りを1枚にした表は、本記事独自の整理である。
表3 版と数え方ごとの上位3モデルの点(%。右端の差の単位はポイント)
| 条件 | Argon | Sonnet 5.5 | Opus 5.5 | 3モデルのうち最高 | 最高と次の点の差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 版2.1(10月13日更新)、見出し値 | 68.90 | 67.04 | 66.97 | Argon | 1.86 |
| 版2.1、代替処理を失敗と数える | 68.90(代替処理なし) | 65.85 | 65.05 | Argon | 3.05 |
| 版2.2(10月19日更新)、見出し値 | 69.24 | 70.85 | 70.18 | Sonnet 5.5 | 0.67 |
| 版2.2、代替処理を失敗と数える | 69.24(代替処理なし) | 69.03 | 64.16 | Argon | 0.21 |
(注)3モデルの点だけを並べた表で、全体の順位は示さない。
表3のとおり、版2.1ではどちらの数え方でもArgonが最高である。版2.2では、最高と次の点の差が見出し値で0.67ポイント、失敗と数えた値で0.21ポイントまで縮まり、見出し値から数え方を一つ変えるだけで、最高のモデルはSonnet 5.5からArgonに入れ替わる。
差は、Valsが各モデルに併記する±値と同じ桁にある
Valsの表は、版2.2で各モデルの点に±値を併記している。上位3モデルでは、Sonnet 5.5が±0.93、Opus 5.5が±1.00、Argonが±1.09である。首位のSonnet 5.5と3位のArgonの差は1.61ポイントで、±値と同じ桁にある。
Valsは10月6日付の保存版(版2.1)の解説文で、Sonnet 5.5とOpus 5.5の0.07ポイントの差を、標準誤差(点のぶれの目安)の約±0.9の内側と書いていた。現行の版2.2のページ本文には、±値の定義の記載がない。そのため本記事は、±値を表示された値として扱い、差と比べるのは桁にとどめる。
実行設定と、Googleの評価資料の表の出どころ
Valsのデータでは、Argonが推論の強さ「High」、Sonnet 5.5とOpus 5.5が計算量「Max」の設定になっている。AIモデルを独自に測って比較を公開しているArtificial Analysisの比較ページも、Argonを「High」、Sonnet 5.5を「Max」の設定で載せている。HighとMaxが同じ強さに対応するかどうかは、どちらの資料にも書かれていない。
Googleの評価資料は、Vals Indexの値をVals AI由来、Argonの一部の項目を自社計測、他社モデルの値を、別に出どころを書いた行を除き提供元の自己申告と説明している。結果表の比較列にClaude Opus 5.5は入るが、Claude Sonnet 5.5は入らない。表のVals Indexの行(Argon 68.9%、Opus 5.5 67.0%)は、版2.1の値と一致する。Googleの表だけでは、ArgonとSonnet 5.5の並びは読み取れない。
ここまでの数字から見ると、上位3モデルの差は、条件を一つ変えただけで並びが入れ替わりうる程度にとどまる。では、総合順位の下にある項目別の値は、どう並んでいるのか。
総合順位の下では、先行するモデルが項目ごとに入れ替わる
Vals Indexの内訳では、Sonnet 5.5との差はコーディングで開き、法務で縮まる
Vals Indexは、非公開六つと公開二つの計八つのベンチマークを四つの区分に割り当て、区分ごとの平均を重みづけて合算する。重みは、金融が8.0、コーディングが5.6で、法務は1.2、税務は0.5と小さい。
版2.2で先頭に立つモデルは、項目ごとに違う。Valsの記述では、Opus 5.5がFinance Agent、Terminal-Bench 4.0(コマンドライン操作での問題解決を測るベンチマーク)、Tax Agentで、Sonnet 5.5がEMB、Vibe Code Bench(アプリの作成を一通り行う課題)、Code Migrationで、ArgonがLegal Research(判例・法令の調査)とHLABで先頭にある。Sonnet 5.5がArgonを上回る約1.6ポイントを、区分ごとに分けた(重みと点から組み直した独自の分解)。コーディングで約2.4ポイント、金融で約0.2ポイント、Sonnet 5.5が上回る。法務ではArgonが約0.9ポイント、税務でも約0.1ポイント上回り、差を縮める。
Artificial Analysisでも、総合と項目で並びが違う
Artificial Analysisの比較ページにあるIntelligence Index v4.3.2(10項目)では、総合がSonnet 5.5の56に対してArgonは53である(2026年10月21日に取得した値。ページに日付の記載はない)。項目別では、Argonの数字が高いのが4項目、Sonnet 5.5が高いのが6項目になる。
SaaS上の業務フローの実行を測るAutomationBench-AAでは、Argonが78%、Sonnet 5.5が72%である。コマンドライン操作の問題解決を測るTerminal-Bench 4.0では、Argonが57%、Sonnet 5.5が64%である。Valsの内訳とは別の集計でも、総合の並びと項目別の先頭は一致しない。Sonnet 5.5とOpus 5.5がClaudeの現行ラインのどこに位置するかは、Claude Opus・Sonnet・Haikuの使い分けで整理している。
総合順位の重みは米国の産業構成で、評価は英語が中心になっている
Vals Indexの区分の重みは米国のGDPに占める産業の比率で、コーディングにはソフトウェア作業に最も近い区分として情報産業の比率を充てている。税務の項目は米国の法人税の質問が題材である。Valsはこの重みづけを、AIの経済への影響を大幅に単純化したものと断り、目安として使えるとする。Artificial Analysisは自社の指数を主にテキストの英語の評価群と書き、多言語の性能は別に測るとする。一方、Vals Indexのページには、設問や回答に使う言語(英語か日本語かなど)の記載がない。
日本語で日本の事務仕事を行わせたときの優劣は、どちらの総合順位からも直接は読み取れない。どの項目が自分の業務に近いかは、Valsが各項目に付けた説明(金融の多段推論、アプリの作成、判例・法令の調査など)が判断の材料になる。総合順位は項目別の差し引きの結果で、ValsとArtificial Analysisのどちらの集計でも、先行するモデルが項目ごとに違う。用途別の使い分けは、ChatGPT・Gemini・Claudeの目的別の使い分け早見表にまとめている。
Vals Indexの1位は、版・日付・集計条件つきの値として読む
Argonの「Vals Index 1位」は、10月13日の版2.1では事実だった。10月19日の版2.2では並びが変わり、Argon自身の点は上がっているのに3位になった。並びを動かす条件は、指標の中身(Finance AgentとCode Migrationを含む四つの項目の更新)と、代替処理の数え方である。上位3モデルの差はValsが併記する±値と同じ桁にあり、条件を一つ変えただけで最高のモデルが入れ替わることがある。
以上から、総合順位は版・日付・集計条件のついた一つの並びとして読むのが妥当だ。順位を見るときの手がかりは四つある。版と更新日、代替処理の数え方、±値と比べた差の大きさ、そして項目別の値である。
Vals Indexは更新されるため、読む時点の並びはValsの公式ページで確かめられる。本記事の値は、2026年10月21日に取得した版2.2までのものである。Geminiと他社モデルの比較は、GeminiとClaudeの比較とGeminiとChatGPTの比較で、料金を含む複数の軸で整理している。
執筆
AI通信 編集部
AIが社会・ビジネス・日常へ浸透する構造を、官公庁・調査機関・一次論文のデータで追っています。速報より文脈、感覚より数字——変化の「なぜ」を理解することで、次の動きが読める記事を目指しています。
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